2020年10月Apex Legendsシーズン6の中盤において、ゲームのアップデートが行われた。
アップデートの内容は、各レジェンドや武器の調整に加え、コンソール機とのクロスプレイが中心だった。
ただ、その内容の1つが一部で話題を呼んでいる。人気レジェンド『レイス』の走りモーション変更だ。

この変更はゲームバランスの調整(レイスが有利すぎないように)が目的とされている。ただ、レジェンドの個性を大きく変えることなるため、『レジェンドの個性よりバランスを優先する』という開発元の意思・価値観が示された変更でもある。これは、このゲームの今後を占う分岐点ではないだろうか。
個人的な意見としては、多少のバランスを犠牲にしてもレイスの走りモーションは『ナルト走り』を維持すべきだと思う。この『レイス走り方問題』に関して、基本情報の整理と考えのまとめを行った。
レイスの走り方 どう変わる?
変更前 キャラクター性を表す個性的な走り
以前のレイスの走り方は、いわゆる『ナルト走り』。上体をかがめ両腕を後ろに突き出す、『NARUTO』に登場する超人的身体能力を持つ忍者達の走り方だ。
このモーションは単純にカッコいいし、忍者的要素を多くモチーフにしているレイスに合っている。(他にも、レイスのモーションは虚空の入りやダイブエモートも忍者……いうよりナルトモチーフだ。)
変更後 比較的スタンダードで、上体を起こす走り
上体を起こして両腕を大きく振る、比較的スタンダードな走り方だ。『ナルト走り』よりも現実的にスピードが出そう。とはいえ、レイスならではの特徴を感じるわけではない。
元々がこのモーションだったとしたら、特に違和感を感じることもなかったはずだが、『ナルト走り』に慣れた後では物足りなさを感じてしまう。
開発の思想 レイスの走り方変更の理由
そもそも、なぜ今回の走りモーション変更は行われたのだろうか。Apex公式サイトの『アフターマーケット』パッチノートには、開発者のコメントが掲載されている。
開発者メモ:
レイスは弱体化がかなり難しいレジェンドです。開発陣がレジェンドの能力を評価する際に用いるデータは、対象レジェンドを含む3人チームの勝率と上位入賞率、レジェンドが相手をダウンさせた割合とダウンさせられた割合、レジェンドの選択率のように多岐にわたります。こうした多くのデータのすべてで、レイスは傑出した成績を残しています。スタッフがアビリティに手を加えても(これまでに多くの変更を行いました)、彼女は数週間以内に成績を回復させて、選択率の減少を食い止めてしまうのです。レイスの能力は、ソロの戦いと高度な連携が求められる戦闘のどちらでも、非常に有用です。そして、キャラクターとしても魅力にあふれています。そこで、ひとつの結論に至りました。
彼女のアビリティに手を加えることをやめたのです。レイスとパスファインダーには、クールダウンと能力に関する弱体化を限界まで行ってきたため、これ以上能力面に調整を施せばプレイの魅力が大きく損なわれてしまうでしょう。それは、望むところではありません。
そこで、彼女の強さの源泉となっているかもしれない、レジェンドに固有の他の要素に目を向けたところ、彼女独自のダッシュモーションが(背中を丸める動作によって)体勢を下げる働きを担っている程度が判明し、敵にとっては着弾領域が狭まっていたことが明らかになりました。あまり大きな違いには思えないでしょうが、彼女の当り判定がそもそも小さかったことを加味すると、大きなアドバンテージが生じていたのです。
そこで今回のパッチでは、レイスの新しいダッシュモーションを導入しました。これによって姿勢はかなりまっすぐになり、銃撃にさらされる部分が大きくなりました。彼女を象徴する従来のダッシュ動作が姿を消すのは残念でなりませんが、これ以上彼女のアビリティに手を加えずに、戦闘力を同水準に近づけるには、これが抜群の最善策だと考えています。このモーションが実装された後の動向次第では、彼女のアビリティの弱体化をある程度まで撤回できる可能性もあります(ただし、約束はできません)。
これまでと同様に、今後はプレイヤーの声に耳を傾けながら、変更に関するデータを見守ってまいります。
https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/news/aftermarket-patch-notes
少し長いが、まとめると下記のようになる。
- 度重なるナーフにも関わらず、レイスの強さは傑出している
- とはいえ、これ以上アビリティ(虚空)をナーフするとプレイフィールに悪影響が予想される
- なので、アビリティではないところ(走りモーション)をナーフして被弾率を上げます
開発としては、レジェンド間のパワーを均一化するために、いまだに強力すぎるとしてレイスをナーフした。ただ、今回特異であったのは今まで再三いじられてきたアビリティではなく、モーションが対象になったということだ。
レイスの『ナルト走り』は武器をしまった状態でのみ発生するモーションなので、その上体の時に(正面から見て)被弾面積が小さかったとしても、限られたシチュエーションのみで影響する。その意味では、ナーフされたとしても影響は小さく、開発の意図に即しているといえそうだ。
ただ、Apexのモーションの中でも最も印象的なもののうち1つを消してしまったことは、開発が意識したという『プレイフィール』を果たして保全できているが疑問だ。見方にマッチしたレイスを見ていて感じるものや盛り上がりが、無意識の内に淡白になってしまっているように思われる。
レイスの走り方は『ナルト走り』に戻すべき
開発の目指す『バランス』は全てのゲームが永遠の課題としているものでもあり、そのためには大きな変更も辞さないという方針も理解できる。ただ、Apex Legendsというゲームの特徴や立ち位置を考るとバランスを犠牲にしてでもキャラクターの個性を優勢すべきではないだろうか。
キャラクターの魅力を損なっている
Apex Legendsを知らない人が聞けば、キャラクターの走り方程度、大した問題でないと思われるかも知れない。ただ、プレイヤーならそうではないことを知っているはずだ。
Apex Legendsが人気を博したのは、スタイリッシュでライトな操作性。そして今までにない強烈なプレイヤーキャラクター(レジェンド)の個性ではないだろうか。
どのレジェンドを選択したかによって、チームの行動方針自体が大きく変わるほどに、アビリティやアルティメットは強力だ。また、日本を初めアジアで人気を博しているのは、レジェンドのキャラクター設定が明確にあり、キャラ人気要素があることも一因のはずだ。
『バランス』は大事でも神ではない。キャラクターの個性でもって競合ゲームと差別化しているApex Legendsであれば尚更、時にはバランスを犠牲にしてでもレジェンドの個性を発揮させてほしい。
レイスを使うと強い? 強い人がレイスを使うのでは?
開発がレイスをナーフしている理由は、レイスが他のレジェンドよりもデータ上で優れた成績を残しているからだ。キルを取る数、チャンピオンを取る確率など。レイスが他のレジェンドよりも強いから、ナーフしてバランスをとる必要があるのだという。
だが、プレイヤーはランダムでレジェンドをピックしているのではない。気に入ったレジェンド、強いレジェンド、そして自分にふさわしいレジェンド。様々な要素の兼ね合いがレジェンドを決めさせる。
特にレイスは、一時期ほどではないにしろ最重要レジェンドの地位を確固たるものにしている。最小の被弾面積による打ち合いの強さ、アビリティ『虚空』による生存能力、アルティメット『ディメンションリフト(ポータル)』によるポジショニング/移動能力。Apex Legendsというゲームの全ての側面において、レイスは強みとなる能力を持っていると言える。キャラ性能のデザイン自体がApex Legendsの申し子であり、このレジェンドの重要性を消すためには、彼女かこのゲームのどちらかがデザイン変える必要があるのかもしれない。
そのような重要レジェンドを、プレイヤー(特にランクにこだわるようなガチ勢ほど)は何となく選んだりしない。レイスを選ぶ時は、自分が小隊でいちばんうまいと思っている時や、キャリーするつもりの時だ。(最近はナーフ+他レジェンドの強化でそこまでではないけれど)
レイスを使うと、他レジェンドの時よりも多少気合が入る、という人も多いはずだ。レイスが統計的に良い数値を出しているからといって、データに現れない事情を無視すべきではない。
人気キャラだからこそ、ナーフに耐えてきた
レイスは、ビジュアル、キャラクター、性能、エースが使うという立ち位置、、、様々な要素によってApex Legends随一の人気レジェンドだ。
筆者自身、自分がレイスを使うとチームメイトから取り上げる、ピックすることに引目を感じることがある。ただ、レイスを使ってチームをキャリーできると、これこそがApex Legendsの真骨頂だと感じる。睡眠時間を削ってこのゲームをしている理由を思い出す。
多少のナーフがあっても、レイスは人気が高くこのレジェンドにこだわるプレイヤーも多いため、ナーフや変更に順応して使い続けようとする者も多い。レイスがナーフされてもなかなか地位を落とさなかったのは、レジェンドとしての性能でだけではなく、プレイヤー達の意地と努力があったことを開発には意識してもらいたい。
そもそも、レジェンドの強さは違っていい
開発がレジェンドの強さを均一化したがる理由はなんだろう? 各キャラクターの強さは均等であるべきという考え方は、なんとなく根拠を示すこともなく、正しいとされることが多い。ただ、Apex Legendsのようなゲームでキャラクターの強さを(プレイフィールを犠牲にしてまで)均一にすることは、本当にゲームをより楽しくしているのだろうか?
強さを測るのは、ほとんど不可能
キャラクターの強さを測ることは難しく、厳密な意味では不可能だ。キルやアシストの数といった単純なデータでは見えない部分が多すぎる。
例えば、統計データがキャラクター自体の性能を反映しにくい例としては
- 性能自体は高くないがプレイフィールがよく、玄人プレイヤーが好むので結果的にスコアが高いキャラ
- ビジュアルがよく、有名なのでビギナーが使いたがり、結果的にスコアが実際の性能よりも低くなっているキャラ
- サポート性能に偏重しているため、ピックされた時の勝率はいいものの、プレイヤーは使いたがらず使用回数が他よりも少ないキャラ
といったものが考えられる。
プレイヤーはランダムでキャラクターを選ぶのでない。キャラクターを選んだ時点で既に大きな作為が働いているので、単に統計スコアでは『強さ』は測れない。
スコアだけを見ていると、サポート能力は頭抜けているがプレイフィールの悪い『奴隷キャラ』が発生し、プレイヤーは勝つためにイヤイヤでもピックするために使用率は高いという、作品の癌のような事態に陥りかねない。(ボーダーブレイクの昔の支援兵装とか、LOLの昔のサポートとか、、、今は両方ともずいぶん使って楽しいロールになりました)
強さ自体は、1つの強烈なキャラクター性
ゲーム中のキャラクターの性能の高さというのは、メタ的な視点も含めてそのキャラクターの重要な個性だ。特に、レイスの場合はクールで自信に満ちたキャラクターと実際の性能が噛み合って『レイス』というApex Lgendsに欠かせない存在を作り上げていた。
キャラクターに強い個性があることは、競合ゲームと比べた際のApex Legendsの大きな特徴だ(人によって、それが好みかは別として)。そしてそのキャラクター性にはゲーム内での立ち位置、特にレイスの場合はその強さが大きな要素として含まれている。
強いキャラクターでも、皆がピックできるなら公平
仮にレイスや、他のレジェンドが突出した強さを持ち必ずピックされるような存在だったとして、それが大した問題だろうか?
チームごとに、自由にレジェンドをピックできる
Apex Legendsのレジェンド選択は、チームごとのドラフト式だ。一つのチーム内では同じレジェンドを複数使うことはできないが、他のチームがどのレジェンドを使ったかには影響されない。
そのため、レイスが欲しいチームは確実にレイスをピックすることができる。LoLのようにキャラの取り合いにはならないので、キャラごとの性能差があったとしてもチーム間の戦力差は生まれない。
メタを回転させれば、個性を消す必要はない
もしかしたら開発は、レジェンドごとのピック率に差がありすぎることを問題視するかもしれない。だか、それも無理に解消する必要があるとは思えない。
Eスポーツの代表的種目であるLeage of Legends(LoL)でもキャラクター格差の問題は深刻だ。特に国際大会の後半などはメタが煮詰まり、キャラ数が150体いるにも関わらず毎試合同じキャラがピックされる。
ただ、個人的にはそこまで是正すべき問題とも思えない。キャラの強さに差があっても仕方ない理由としては、
- メタの回転。修正を加え続ける事により環境にあったキャラは常に入れ替わる。ゲームプレイは新鮮になるし、今まで弱かったキャラにスポットライトが当たることもある。
- キャラ人気。ビジュアルや設定などで、性能以前にキャラの人気には大きな格差があり、人気キャラを使いたい人は多いのだから、彼らは産廃にするわけにはいかない。
- レアピックの盛り上がり。大会シーンでメタ外のキャラがピックされると非常に盛り上がる。
キャラの格差は生まれるものであり、受け入れるべき。少なくともキャラクターの個性を削ってまで無理に「数字」を合わせる必要はない。
Apex Legendsはどこを目指すのか
私がApex Legendsをプレイして感じるのは、このゲームを一言で表すと『旅』そして『物語』であるということ。
そもそもバトルロワイヤルという性質上、武器やシールドの入手状況はマッチごとに全く異なる。同じプレイヤーでもキルムーブをかませることも、終始逃げ回ることも、どちらも起こり得る。
そのような状況の中で、味方とそれぞれのキャラ特性を活かしながら最善の道を探る。困難を超えてチャンピオンを獲得すると、一つのロードムービーを見終えた後のような、物語を読み終えたような気分になる。それが私がApex Legendsをやる理由かもしれない。
Apex Legendsの魅力は、その不確定さ、歪さ(レジェンドごとの特徴差)による部分も大きい。開発がEスポーツ化を目指しているのかは分からないが、自らの魅力の源泉を見失うことだけはしないでもらいたい。
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