なぜ『にじさんじ甲子園』は面白かったのか?

にじさんじ甲子園 イメージ Vtuber

2020年8月16日、球児達の熱闘があった。YouTubeのむこう、バーチャルの世界で。

バーチャルユーチューバー(Vtuber)グループ「にじさんじ」による大型企画「にじさんじ甲子園」。決勝戦のYouTubeライブの同時接続数は19万を超え、Vtuberの配信としては前代未聞の盛り上がりとなった。

私もグループリーグ、決勝戦とライブで視聴し夢中になった。勝負の決まる場面では一球ごとに息を呑んで見守った。私の「推し」の樋口楓は惜しくも優勝を逃したが、どの試合も拮抗し見終わった後は心地よい満足感に包まれた。

ただ、決勝から時間が経った今、あの熱狂は何だったのだろうという思いがある。もちろん、「にじさんじ甲子園」は面白かった。それは私の感覚が証明している。問題はその面白さが何処から来たのか。その感覚を掘り下げてみたい。(筆者はパワプロ自体はプレイ経験ありません)

「にじさんじ甲子園」とは何か

概要

「にじさんじ甲子園」とは、バーチャルユーチューバー(Vtuber)グループ「にじさんじ」のメンバーが、野球ゲーム「パワフルプロ野球2020」で自分の野球チームを作成し、それぞれのチーム同士を戦わせてにじさんじ内のNo.1チームを決めるというもの。

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にじさんじ甲子園の詳細は非公式wikiに充実

日程、参加ライバーなどは非公式wikiに詳しくまとめられている。この企画の内容自体を追うには、このページや各配信者のアーカイブを参照していただきたい。

https://wikiwiki.jp/nijisanji/にじさんじ甲子園

一見淡白なにじさんじ甲子園

にじさんじ甲子園は、約100名が所属するにじさんじ全体を巻き込んだお祭りという印象がある。ただ、実際にゲームをプレイしていたのは監督役の6名のライバーだけである。

それぞれの要素を書き出してみると、盛り上がりに反してゲームそのものは淡白な内容であることが分かる。

改めて見ると、淡白な構成のにじさんじ甲子園

選手名のライバーは、名義のみ

各球団の選手はにじさんじ所属ライバーで構成されている。と言っても、選手キャラクターにライバーの名前をつけるだけで、そのライバーが直接ゲームに関わることはない。

監督ライバーの操作も限られている

試合を行う際の、実際にゲームをプレイする監督役ライバーの操作内容も限られている。

試合中に行う操作は

  • 交代、代打指示
  • 伝令
  • 打席などでのコマンドカード選択

くらいなので、打席に立った選手が打つかどうかはつまるところ運任せになる。

とはいえ、結果としてのにじさんじ甲子園は空前の盛り上がりを見せた。整理してみると淡白に見えるこの企画が、どのような作用を受けて成功に至ったのか。リスナーとして企画を追って感じたことを下記に整理し、盛り上がりの仕組みを再確認したい。

魅力をつくる仕掛けと作用

にじさんじ甲子園の参加ライバーは、正確に数えれば6名でしかない。ただ、見ていた私の印象はまさに箱推し企画だった。この盛り上げの各要素を考察して記録したいと思う。

全員参加感を作り上げる名代演出

ライバーの名義使用は本人の許可制

6つの各チームの選手たちは、エディット機能でにじさんじライバーの名前が与えられている。

自動生成でキャラが誕生したときは「山田」だの「鈴木」だのと言ったランダムな名前を持っており、見た目も地味な学生風だ。それを、割り当てたライバーになるように名前と見た目をエディットする。

一見、選手は勝手にライバーの名前を名乗っているだけに思えるが、ライバーの名義は本人の了承があったものだけを使用している(実際にはほぼ全員が了承していた)。

これにより、選手キャラクターは単にライバーの見た目をしているだけでなく、本人の名代としての公認性を得て、本人が参加しているという感覚につながっている。

決勝に次ぐ盛り上がりのドラフト会議

上記の通り、ライバーの分身となるキャラクターはエディットにより自由に作ることができる。

とはいえ、複数の監督役ライバーが同じライバーを選手として作ってしまうと、同一人物が複数存在することになってしまう。そうなるとその選手キャラはただのゲームデータでしかなくなり、選手役ライバー自身が参加しているという感覚は無くなってしまう。

にじさんじ甲子園では、各ライバーを元にした選手は企画を通じて一人のみとし、ライバーと選手キャラの結びつきを無二のものとしている。

そうなると当然、人気のライバーの取り合いが発生する。
にじさんじ甲子園では実際の野球になぞらえてドラフト会議を行うことでこの問題を解決し、ライバーの取り合いを決勝に次ぐ盛り上がりの山場に昇華している。

キャラとライバーの同一視

ライバーの名前を持つ選手が企画内に一人だけで、名義の使用も公認されたものだったとしても、パワプロ内の選手キャラクターはただのデータで、ライバー本人とは本質的には無関係であることに変わりはない。

ただ、多くの監督役ライバーは、選手キャラがそのライバー本人であるかのようなコメントをすることが多かった。選手の活躍に対して、まるでライバー自身がそれを行ったかのように語りかけた。選手役のライバー達もまた、自らがプレーをした体で配信中にコメントをしたり、Twitterで言及したりした。

この企画やにじさんじ自体をよく知らない人が、少し引いた視点でこのやりとりを見ると、くだらない子供のやるようなごっこ遊びに見えてしまうかもしれない。この一連のやりとりは確かに悪ふざけと言えるかもしれない。だが、これこそがライバー達とパワプロというゲームの間に同一化とも言える強い繋がりを作り、『にじさんじ甲子園』を監督役6名だけがゲームする企画から、にじさんじ箱内約100名を巻き込んだお祭りに変えたのだ。

物語の終着点が交差する

上記のではにじさんじライバー達が作り上げた物を紹介した。だが、パワフルプロ野球2020、それも『栄冠ナイン』というモードはそれ自体が自然に物語を作り上げる力を持っている。

栄冠」モードは青春の3年間

『栄冠ナイン』はパワフルプロ野球のゲームモードの1つ。プレイヤーは高校の野球部の監督となり、自らのチームを鍛え上げて甲子園優勝を目指す。

現実の甲子園も、プロ野球よりも好きな人がいるくらい、熱い物語が生まれる場だ。高校3年間という限られた時間・限られたチャンス。先輩後輩の関係。プロへの道、それ以外の進路。

栄冠ナインも同じだ。ゲームスタート時にキャラメイクできるのは1年生だけなので、2、3年生は自動で生成されたキャラクターだ。モブと言っていい彼らだが、共に甲子園を目指して最後の夏を過ごした後には感情移入してしまい、一人一人の人格もなんとなく感じるようになってしまう。

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それぞれ物語

ただでさえ感情を揺さぶられる『栄冠ナイン』モードだが、そのキャラクター達がおなじみのライバーの面々であれば、いやがおうにも盛り上がりは最高潮に達する。特にそれぞれの3年間を背負って挑む最後の夏は、予想外なほどに感情を揺さぶられ、1球1球を息を飲んで見守ることになる。

勝っても負けても、その世代の甲子園はそれで終わり。ライバーの名を冠したキャラクターは一人きりだから、そのライバーを甲子園に連れて行けるチャンスも一度きり。現実の高校野球さながらの条件が自然にドラマを作り出す。

すべてが交わる本戦

6人の監督役ライバーの率いる、6つの野球部。それぞれに3年間の物語がある。甲子園に到達した者、そうでない者。だが、この企画の頂点は甲子園ではない。

3年間を過ごした各校のデータを持ち寄り、最強の1校を決める。各校・各選手に物語があり、それが一点に交わって終局のお祭り騒ぎを作り出す。

大袈裟にいえば、マーベルのアベンジャーズのようなもの。それぞれ自分自身のストーリーを持つヒーロー達が1つの映画に集い、大きな物語が決着する。

やっていることだけを見れば、単なるゲームの対戦会だ。だが、それぞれの野球部と選手にストーリーを見出すのであれば、これは1つの夏の終わりであり、推しライバー選手の最後の晴れ舞台だ。

関連企画での盛り上げ

本企画を盛り上げた副次的な要素としては、多数のファンアートに加えてライバー自身が行った関連企画もあった。

サイレングランプリ

人の叫び声にも聞こえる甲子園球場のサイレンを、ライバー達が声真似してみるという企画。声が主体となるVtuberだからこそ、それぞれの個性を感じる『サイレン』を聞くことができる。このサイレン音声はにじさんじ甲子園本戦のサイレンとしても使用された。にじさんじ全体を巻き込んだお祭り感を盛り上げる一因になっている。

おわりに-これから観る人へ-

『にじさんじ甲子園』は、非常にハイコンテクストな企画だといえる。

何も知らない状態で見れば、ただ野球ゲームをしているだけ。だが、登場するライバー自身の持つ物語と個性、ライバー同士の関係性、そして栄冠ナインモードの3年間の軌跡。知れば知るほど、ゲーム画面内で起こっていることが色付き、ドラマチックに見えてくるはずだ。

最近にじさんじを見始めた人は、いきなり『にじさんじ甲子園』を見ても、なぜこんなに盛り上がっていたのかすぐにはわからないかも知れない。そんな人は、まずはライバー個人の配信を見て1人1人の個性を知り、さらにライバー同士の関係性を把握してほしい。お気に入りのライバーを見つけた上で試合を見れば、この企画を100%楽しめるはずだ。

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