レビュー:「激動の昭和史 沖縄決戦」(映画)

DVDパッケージ レビュー
  • 概要

公開:1971年 
監督:岡本喜八
出演:小林桂樹, 丹波哲郎, 仲代達矢

太平洋戦争末期の沖縄戦を俯瞰的に描いた戦争映画。70年台の戦争映画はエンタメ色が強くなりつつ時期だが、本作は個人に寄り添い過ぎない目線とテンポのいいカットに乗せて、背筋から寒くなってくるような日本の姿を描いている。

  • 監督

監督は岡本喜八。その他の代表策は「独立愚連隊」「ダイナマイトどんどん」「日本のいちばん長い日」など。「独立愚連隊」は名前だけは知っているという人も多いのでないかと思います。とくに「ダイナマイトどんどん」は見終わったあとの後味もよく、気持ち良く観れる快傑作なので一番のおすすめです(そのうちレビューしたいです)。

  • 視聴/入手方法

Amazon プライム・ビデオで有料配信中。DVD・BDも購入できます。
これらの映画がこんなに容易に視聴できるようになったのは、本当にここ最近のことです。

  • どんな映画?

沖縄戦の出来るだけ全貌を、テンポのいいカットを駆使して詰め込んだ戦史映画の傑作です。登場人物もエピソードの数も非常に多く、比較的俯瞰した目線で作られています。プライベートライアン以降、一兵士の視覚をそのまま写しとるような、映像のリアルさや臨場感を重視した戦争映画が現れてきた印象があります。それに対して、本作は頻繁に場面を転換しながら多くの人物、長い時間軸を描いています。日本側視点としては、主要な要素はほぼ網羅して描いていると言えます。ともすると散漫な印象になりがちな手法ですが、本作は各所に鮮烈なエピソード(冒頭に創作と断りがあります)を盛り込んで印象づけています。

主軸となるのは、やはり日本陸軍高級参謀の八原博道の視点だと思います。彼はこの沖縄戦の作戦を立案する立場にあり、当時最も沖縄戦の状況を把握する事ができた人物でしょう。八原博道本人による沖縄戦の手記も出版されており、kindleでも入手できます。(俺は半ばまで読んだので、読了したらレビューしたいです。) 陸軍大学恩賜卒業(=主席卒業)、米国留学経験のあるエリートで、彼の主張する持久作戦は、現代人も合理性の面においては納得しやすいものだと思います。演じる仲代達矢は本当にはまり役で、俺は八原博道の手記を読んでいても仲代達矢の演技を思い起こしてしまいます。

悲惨なテーマを効果的な演出で描いているので、特に初めて観る時は気分が悪くなるくらいの衝撃を受ける可能性があります。それでも、言葉を選ばずに言うとこの映画は面白い。演出がいいので何度も見たくなる魅力があります。また、沖縄戦と言うテーマや演出やセリフ回しの影響など、ここから様々な方面に派生していく入口ともなる作品です。

  • 時代背景

1941年から1945年の足掛け4年間続いた太平洋戦争の末期、日本本土の一部である沖縄に来攻した米軍と日本軍の戦いが描かれています。沖縄戦が始まったのは1945年の4月ですが、この時期はすでに航空、海上戦力ともに圧倒的な差がついており、日本側でも「もはや負けは避けられないが、どんな条件・手順で負けるか」という話題が始まっていました。既にサイパン、硫黄島などで玉砕(全滅)が起こっており、米軍来攻を迎えうつ=死であると言う認識を軍人たちは共通して持っていました。冒頭、沖縄行きを拝命する牛島中将に周りが気遣うような言動をするのは、彼が死の命令をまさに受けたからです。その後の作戦会議などのシーンで、参謀の長勇や八原博道がいかに勝つかと言う議論をしますが、これも針の穴に糸を通すような僅かな可能性を求めてのことです。冷酷な死の現実の中で何かを打開する道を探す、人間の心理だと思います。その中で、八原博道は持久作戦を主張します。これは現実の戦力差を考えれば最も効果的である事は他の人物も分かっていたと思われますが、反対する者も多かったようです。持久作戦とは、万人に一つの勝利の可能性を捨て、確実な死をただ引き延ばすという事です(引き伸ばしている間に、本土での戦いの準備を進める事ができる)。戦略的には最も確実性があったとしても、自分の命でそれをやれる人は限られるでしょう。最悪の環境の洞窟にあって死は避けられず、ただそれを引き延ばすことの苦痛は想像を絶します。万に一つの可能性を求めて決戦し、結果玉砕する道の方がまだその過程では希望を感じられるかもしれません。 また、上記を見ると沖縄戦とは日本軍だけが登場人物のように思えてきますが、劇中にある通り当時の沖縄県民の3分の1にあたる15万人が亡くなったとのことです。本作は日本軍目線で描かれるシーンが本筋にはなっていますが、県民の被った甚大な被害についてもかなりの尺を使って描写しています。

  • アニメのへの影響

「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明が、本作から多大に影響を受けていることは結構有名な話です。人物がしゃべり切った瞬間にカットが変わるテンポの良さ、白く大きなテロップなどははっきりと見て取れる共通点です。「トップをねらえ!」「新世紀エヴァンゲリオン」に特にはっきりと表れているでしょうか。俺は「トップをねらえ!」がすべてのアニメの中でも指折りで好きですが、このアニメの沖縄の少女が戦闘訓練に励み、狂信的とさえいえる熱意でその身を戦いに投じる様子は、沖縄戦を重ね観ると薄ら寒くなってくる一面もあります。
本作にはセリフも印象深いものが多いので、引用されることも多いようです。
・「船が七分に海が三部だ!」→「トップをねらえ!」第五話で引用
  多数の敵の出現を、海や宇宙を埋め尽くす様子で表現したセリフ
・「靖国が満員になって、敵前がガラガラになって……」→平野耕太「ヘルシング」で引用
  部隊員が次々と死んでいき、現実の戦闘を行えるものがいなくなっていく様子

  • 個人的評価

オススメレベル最大です。取り敢えず見てくれ。日本映画はつまらないと思う人、日本映画っぽいくどい会話なんかない傑作があるから見るように。戦争映画が気になる人、ここからなら入りやすいです。アニメ好き、コレがアレの元ネタだからチェックしよう。日本映画好き、文句なしの豪華キャストだぞ。

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